樹木葬とは、近年よく話題となり、人気も高まってきている埋葬方法のひとつです。歴史はまだ浅いといえど、現代に生きる人たちのお墓に対するニーズにマッチする部分が多く、テレビなどでもよく取り上げられているため、名前だけは聞いたことがあるという方も多いかもしれませんね。
しかし実はこの樹木葬、見方を変えれば「土に埋葬してその上に木を植える」という、方法自体はむしろ古くに行われてきた手法です。ただ「樹木葬」という名称や、それを現代の都市の形にうまく合うようにアレンジされたものだ、と述べることができるでしょう。
今回はこの樹木葬について、どんな仕組みなのか、どのような種類があるのか、詳しく見ていきましょう。
樹木葬の概要
樹木葬とは
樹木葬を一言で説明すると、「樹木を墓石や墓標の代わりとして植え、その下に遺骨を埋葬する」というものです。
ただ、「お墓の種類」などのサイトを見ると、よく「永代供養墓」などと同列にまとめられているのを見かけますが、これは正確ではありません。
永代供養墓とは「お墓の供養や管理を墓地や霊園にまかせられる」形式のお墓のことで、永代供養墓のなかにもさまざまな形態があります。そのうちのひとつに「樹木葬」という形態がある、ということなのです。
よって、樹木葬とは何かという問いに対するもっとも適した答えは、冒頭の「樹木を墓石の代わりとするお墓」というものだといえます。
そして、樹木葬というカテゴリーのなかでもさらに細かくタイプが分かれています。以下ではそのような詳細についてもひとつひとつ見ていきましょう。
とはいえ、樹木葬には明確な定義はありません。樹木を墓標の代わりにするといっても、個別のお墓ひとつひとつに1本ずつ樹木を植える方式もあれば、大きなシンボルツリーを1本植えてそのまわりに複数の遺骨を埋葬するという方式もありますし、骨壺のまま埋葬する、土に還るようにそのまま埋葬する、またペットも一緒に埋葬できる、などさまざまです。
漠然と「樹木葬がいい」と希望する方は、具体的にどのような樹木葬がよいのかというイメージを固めたうえで、その形式をとっている霊園や墓地を選ぶ必要があるでしょう。
シンボルツリーにはどのようなものがあるか
霊園によって、シンボルツリーはあらかじめ決められた樹木であることが多いのですが、ある程度自由に選べる場合もあります。一般的には緑が美しい木や、多くの人になじみがある、花が咲く木は人気が高くなっています。
例を挙げると、桜・紅葉・ハナミズキ・クスノキ・ウメモドキ・サルスベリ・ヤマツツジ・カラマツ・ポプラ・エゾアジサイなど。庭園タイプであれば、樹木だけでなく低木や季節の草花がたくさん咲くところもあり、ご自身の好みの樹木葬がきっと見つかるでしょう。
樹木葬の種類
タイプによる分け方
都市型(庭園タイプ・公園タイプ)
西洋ガーデン風、日本庭園風などさまざまなコンセプトに沿って美しく造園された庭園タイプや、芝生で整えられ公園のような開放感を感じられるタイプです。彩り豊かな石材や季節の草花によって構成されていることが多く、デザイン性が高いことが特徴です。
納骨のたびに新しくシンボルツリーが植樹されることもありますが、土地の広さによっては1本の大きなシンボルツリーのまわりに埋葬されるタイプが多くなっています。一般的なお墓が並ぶ霊園のなかに、樹木葬エリアとして別で設置されていることがほとんどです。
都市圏にあるため、お参りする際にもアクセスがよい・管理が行き届きやすいというのが最大のメリットといえるでしょう。
里山型
法律的に許可を得ている自然豊かで広大な土地に、1区画ごとに遺骨を埋葬してシンボルツリーを植える・もしくは元々自生している樹木の根元に埋葬する、というタイプです。
都市型の樹木葬同様、骨壺などに遺骨を入れて埋葬する形式もありますが、直接遺骨を地中に埋葬することができるものもあり、「土に還りたい」という希望を持つ人にとってはうってつけといえます。
ただし広大な土地を持つため、都市部からは離れた郊外にあることが多く、都市型よりもお参りが不便になることが考えられます。墓標の判別も難しいため、プレートなどを設けない場合はどこに向かって参拝していいかわからない、ということも起こり得ます。
埋葬方法による分け方
合祀型
骨壺から遺骨を取り出し、ほかの故人の遺骨とともに埋葬する形式です。費用はもっとも安価で収まりますが、あとから遺骨を分けて取り出すことは不可能であるため、注意が必要です。また、ほかの故人と一緒に埋葬されることに抵抗感をおぼえる方もいるでしょう。
1本のシンボルツリーを共有し、すぐそばに合祀で埋葬されます,
共同(集合)型
シンボルツリーは共有で、スペースは個別になっているタイプおよびひとつの大きなスペースに骨壺を並べるタイプがあります。いずれにしても、ほかの故人の遺骨と混ざってしまうことはありません。
費用は合祀型と個別型のちょうど中間くらいになります。シンボルツリーは共有であるため、お参りの際にその対象が少し漠然と感じられる恐れもあります。
個別型
シンボルツリー1本につき故人ひとり分の骨壺を埋葬する場所を設ける形式です。プレート型の墓標を設置できることもあります。
ただし、一定の期間が過ぎると合祀型の埋葬地に改葬されることがほとんどとなっています。費用も合祀型や共同型よりもかかります。
家族埋葬型
個別埋葬型の家族版といったところです。家族が一緒に眠る場所にシンボルツリーを植えますが、こちらもやはり一定期間経過後は合祀型の埋葬地に移されることが多いでしょう。
納骨方法による分け方
遺骨をどのような状態で埋葬するか、という点でも形式が分かれます。
・遺骨を骨壺に入れて埋葬する
・遺骨を土に分解されやすい袋などに包んで埋葬する
・遺骨を直接埋葬する
・遺骨をパウダー状にして埋葬する
樹木葬の費用内訳と相場
樹木葬は比較的安価である
樹木葬にかかる費用は、一般的なお墓と比べて安価で収まることがほとんどです。墓石が必要なくシンプルであり、埋葬に必要なスペースも小さくて済むため、というのが主な理由です。
納骨の方法やお墓に入る人数によってももちろん差はありますが、費用相場は20~80万円程度が相場といわれています。
ただしこれはひとり分に対しての価格であるため、比較的安価であるとはいえ、人数が多くなればなるだけ費用は追加でかかります。したがって家族全員で入りたいなどという場合は一般的なお墓とそう変わらない、もしくは高価になってしまうこともあります。
樹木葬の費用内訳
使用料
墓地の土地の使用料です。その場所の地価に影響を受けるため、郊外に比べて都市部では少し高価にはなりますが、それでも樹木葬は一般的なお墓と比べて個々のスペースが小さな範囲で収まる分、だいぶ安価になります。
納骨料
遺骨を埋葬するための費用です。使用料に込みになっているプランもあります。遺骨ひとり分ごとに発生する費用であるため、人数が多くなるほど割高になる点に注意が必要です。
銘板料
墓誌代わりのプレートを設けるタイプであれば発生する費用です。樹木だけを目印にするタイプならば、もちろん必要ありません。プレートを作るか作らないかはオプションとして選択できることもあります。
管理費
墓地の管理費用です。樹木葬の場合は、生前の期間だけもしくは一定期間だけ、管理費が発生することが多くなっているようです。また、管理費は不要の霊園もあります。
樹木葬のメリット・デメリット
樹木葬には、大都市における土地不足、また少子高齢化によるお墓の承継者不在といった問題の解決策のひとつにもつながるとともに、利用者にとってもメリットとなる点が多く存在します。
しかし同時に、デメリットももちろんあります。両方ともきちんと把握して、ベストな選択につなげましょう。
メリット1 墓石代がかからない・墓地スペースが小さいため安価である。
前述した通り、樹木葬は墓石の代わりに樹木を植えるため、墓石代がかかりません。一般的な墓地を用意すると、やはり墓石自体の金額、そこに刻字するための費用が高額になるものですが、樹木葬ではそれらの必要がないので、比較的安価に抑えられます。
メリット2 承継者が必要ない
樹木葬は永代供養(霊園や寺院が長きにわたってお墓の供養や管理を行ってくれること)となっているものがほとんどであるため、埋葬後に供養や管理をするのが難しい、いずれ供養や管理をしてくれる人がいなくなってしまう、という人のニーズにも応えてくれます。
メリット3 宗教・宗旨・宗派は問われないことがほとんどである
寺院などの墓地は、宗教・宗旨・宗派によって埋葬を制限されることがほとんどですが、樹木葬の場合はそれが不問であることが多くなっています。特定の宗教でなければ契約できない、檀家にならなければ入れない、ということがないので、気軽に選ぶことができますね。
ただし、寺院墓地の樹木葬の場合は檀家になることが条件になっているところもあります。まずは事前に確認しておきましょう。
メリット4 自然に包まれ開放感がある
樹木や草花に囲まれ、明るく開放感があって、一般的な墓地のイメージとはかけ離れているのも、樹木葬のいいところだと感じる方は多いでしょう。
デメリット1 遺骨を取り出すことが難しい場合もある
埋葬方法にもよりますが、一度埋葬するとあとから遺骨を取り出すことが難しい場合があります。もし改葬の予定があったり、一時的に納骨できる場所を探していたりということであれば、樹木葬は不向きといえます。
デメリット2 粉骨しなければならないことがある
樹木葬では埋葬スペースを小さく収めることが求められるため、粉骨が必須のところもあります。粉骨することに抵抗がある方にとっては、デメリットと感じられるでしょう。
ただし、すべてを粉骨せず遺骨の一部のみ手元に残すことが可能なところもあります。この点も事前にしっかり確認しておきましょう。
デメリット3 お参りの対象が漠然としている
墓石ではなく樹木や草花がお墓の目印であるため、お参りしている実感が湧きづらいと感じられることもあります。
デメリット4 埋葬した場所がわかりづらくなることがある
特に里山型の場合、まわりも似たような風景であり、年月が経って樹木が成長していくと遺骨をどこに埋葬したかわかりづらくなっていくことがあります。これは「自然と一体化していく」ととらえられれば、メリットに転じる方もいるでしょう。
デメリット5 交通手段が不便な場合がある
こちらも特に里山型の場合、広大な敷地が必要であるため、都市部からかなり離れた郊外に墓地が存在していることがあります。参拝する際になかなか行きづらいこともきちんと覚えておかなければなりません。
樹木葬を考える際の注意ポイント
自分は樹木葬に向いているかどうかを見極める
樹木葬は一般的なお墓と比べ、特殊な部分が多いため、前項で解説したメリット・デメリットを踏まえて自分に合っているかどうかということをしっかり見極めて選ばなければなりません。
たとえば、自分だけや夫婦のみなど限られた人数で利用したい・お墓の承継者がいない・自然志向である、などという方には樹木葬は向いているといえます。
反対に、お墓は子孫代々受け継いでいきたい・家族みんな、大人数で入りたい、といった方には向いていません。樹木葬は承継を前提に考えられていないお墓であり、さらに納骨料は人数に比例していくため、人数が多いと一般的なお墓よりも割高になってしまう可能性まで考えられるからです。
あとになってトラブルのないように、樹木葬でできることとできないこと、自分に向いていることと向いていないことは、しっかり確認しておきましょう。
親戚などまわりの人の理解を得る
お墓に対する考え方も多様になってきているとはいえ、まだまだ「お墓は代々承継するもの」「墓石のないお墓には抵抗がある」という方も多くいます。そのため、自分自身は樹木葬を希望していても、決断してしまう前にきちんとまわりの関係者に理解を得ることがとても重要になります。
特に、子どもたち以降の世代にお墓の管理のことで迷惑をかけたくないから、と樹木葬を選んだはずが、当の子どもたちに反対される、という事例も多く見られるようです。
お墓は決して安い買い物ではありません。あとからお互い残念な思いをしないように、あらかじめしっかり意思疎通をはかっておかなければなりませんね。
「自然」に近い場所で眠ることをよく心得る
樹木葬の景観は、季節によって左右されるところが多くあります。春や夏は色鮮やかな草木に囲まれて明るく開放感があっても、秋には枯葉が落ち、冬には雪が降り積もる地域もあるでしょう。これは、自然である以上はある程度仕方のないことです。もしもそれによって「故人がかわいそう」と思うのであれば、樹木葬は避けたほうがよいかもしれません。
また、シンボルツリーももちろん自然の一部なので、枯れてしまったり天災で倒れてしまったりする可能性もゼロではありません。そのような場合は新しい木に植え替えることが多いのですが、人と同じように樹木にも寿命がある、という考え方から枯れたシンボルツリーはそのままにしておく、という霊園もあるようです。
ご自身の考え方や信念とマッチする樹木葬を選ぶことも大切ですね。
まとめ
樹木葬の細かな形式については、霊園によってさまざまです。共通しているのは「墓石を必要としない」ということぐらいで、あとの要素に関しては本当にさまざまです。これまで解説してきたように、埋葬方法・環境・遺骨は個別か合祀かなど、選択肢は数えきれないくらいあるため、自分が希望するものを選べるように下調べはしっかり行っておきたいですね。